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日本文化と昆虫

「静かさや岩にしみいるセミの声」とは世界で最も短い詩といわれる日本の俳句を確立させた松尾芭蕉の有名な一句である。夏の強い日差し、そして影、無数の蝉の声が織りなす蝉しぐれ、日本の夏を代表する光景である。

午前中の日差しが強い時間には「みーんみーん」と啼きだすミンミンゼミ、夕方には「カナカナカナ」と物悲しくなるヒグラシ、そして晩秋にはツクツクボウシが「つくつくぼーし、すいちょーん」とひときわ目立つ声を響かせる。蝉の声は夏の光量と結びつき、日本人の季節や時間のイメージと結びつく。 

日本語を母国語としている人は虫の声を脳の言語中枢で聞くという研究がある。虫の声は母音を中心とする日本語を聞くのと同じように認識されるらしい。

秋の夜の虫の音は夏のセミ以上に日本人の文化に深く入り混んでいる。古くは奈良時代の和歌に詠まれ、平安時代には貴族の間では野山で捕まえて庭に虫を放ち、その声を聴くことが流行ったらしい。虫の音を聞く文化は江戸時代に庶民にまで浸透し、昭和の中期まで啼く虫をかごに入れて売る業者がたくさん存在した。

秋の虫の音を聞く文化は中国にも存在するようだ。中国では虫の音を聞くよりコオロギを戦わせる「闘蟋(とうしつ)」が唐の時代から博打と結びついて大変盛んで、強いコオロギを育てるための方法を宋の宰相が記すなど、今でも一匹一匹を大切に育てられている。

この文化は日本では流行らず、日本ではもっぱら虫の音を聞くことが庶民にも広がっていった。

中国の虫の文化と日本とで大きく異なる点が虫かごである。中国では闘うコオロギなどを、密封したヒョウタンなどに入れて持ち運び、その瓢箪に装飾を施したり、虫を入れる小さな竹細工の虫かごを作ったりしたが、日本の虫かごは竹で作られた比較的大きな虫かごになる。なかでも蒔絵を施した豪華な虫かごも存在する。江戸時代全国の領主が首都江戸に一年ごとに詰める参勤交代という制度があり、西日本の領主の通り道にあった静岡県の駿河竹千筋細工などは大名に愛好され、竹工品の伝統工芸として精巧な竹の虫かごをみることができる。

次号もご期待ください。

続く